
その瞬間は、霹靂のように
突然訪れた。
「新選組副長、土方歳三!!
無念に散った近藤を弔うべく、貴様らを斬る!」
右手に刀、左手に手綱を握り締め、
吼えるように俺は叫んだ。
「同じく、新選組!!桜庭鈴花!」
少し後ろから聞こえるのは、
馬の蹄の音にも負けないほど、勇ましくも
女子らしい鈴のような声。
本当は彼女も刀で戦いたかっただろう。
しかし無粋な猛者共と、鉄砲に囲まれた戦場で戦うには
女子の、身体の小さい桜庭にとっては不利になってしまう。
それでも鉄砲を構える姿も、凛としていて美しかった。
ただ必死で、もう無我夢中で
友の無念を晴らすべく
意地を貫き通すべく
最後の武士として
俺達は駆け抜けた
前方には整然と並んで迎え撃つ、鉄砲部隊。
あまりに無謀すぎる突撃。
悔いはない
はずだった
それなのに
宙に投げ出された俺はとっさに、
同じように崩れる桜庭の腕を引き寄せた。
桜庭は驚くことも、抵抗することもなく、すんなりと俺に身を預けた。
彼女の身体を抱いたまま、背中から落ちた。
痛みも感じる間もない衝撃だった。
重なったまま、天と地が何度入れ替わっただろう。
やっと青い空と、戦場には似つかない満開の桜で視点が止まった。
ここだけ別世界のような、美しい桜の足元だった。
鉛玉を受け止めた腹から裂けるような痛みを感じた。
血も止まらない。
でもそんなことは、どうでもよかった。
「桜庭・・・?」
返事がない。
それどころか微動も、息遣いすら感じられない。
長いまつ毛を伏せて、今朝の寝顔と同じように安らかな顔だった。
原因はすぐに分かった。
彼女の胸元から伝わる、生温かいもの。
ちょうど俺の腹のそれと、混じるように溶け合っていた。
俺がお前を抱きしめた瞬間には
お前はもう
この世の者ではなかったのか
乾いても、愛らしい唇からはもう声も聞こえない。
血と泥に汚れても、美しい顔にも笑顔は戻らない。
「俺とともに死んでくれるか」
昨日の夜、そう尋ねたのは俺で
彼女もとっくに覚悟をしていると、頷いた
そして契りを交わし
共に腹をくくった
なのに、それなのに
どうしてこんなのにも、哀しいのだろう
頬に温かいものが伝う。
戦場で涙を流すのなんて、初めてだった。
「すまない・・・」
あの時、除隊させていれば
あの時、会津へ帰らせていれば
あの時、江戸へ送っていれば
お前をこんなにも愛することはできなかっただろう
それでも
お前をここで死なせることもなかっただろう
頭に駆け巡るのは走馬灯ではなく、
後悔と懺悔の言葉ばかり。
そんな時だった。
空と桜のすき間から、
雪のような、花びらのような
小さな淡い光が舞い降りた
「雪・・・いや・・桜か・・?」
それは涙を拭うように
俺の頬にそっと触れた
降りはじめた、雪のようにやわらかく
日に透かした、花びらのようにあたたかい
「・・これは・・・」
知ってる
この心地の良い
懐かしいぬくもり
いつも側にいた、ついさっきまで側にいた
――――土方さん――――
つい、微笑んでしまった
「・・・お前・・・か・・」
すまねぇな
わざわざ、迎えに来てくれたのか
「今、逝くからな・・」
瞳を閉じる。
再び開いたその先には、
最高の友と
愛しいお前が
待っているのだろう